EMCの規格は対象製品に用途に応じて適用される規格が異なります。IEC、CISPRなどの国際規格には「製品規格」 「製品群規格」 「共通規格」 「基本規格」があり、製品によってどの規格に当てはまるかが決定されます。
その国独自のEMC規格を制定する際、ほとんどの国ではこれらの国際規格を参照しています。初めにどの規格が適用されるかを調べておかないと、最終的な適合性試験時に「今まで試験してきた規格と違う」といったことになりかねませんので注意が必要です。
※ ここに記載されている規格についての正確な内容や試験方法は各規格書を参照してください
適用する規格の優先順位
適用する規格は製品規格が最優先され、その製品に対応する規格が製品規格に無ければ製品群規格、製品群規格に無ければ共通規格といったように適用される規格が決定され評価されます。また基本規格は主に試験方法などが記載された技術文書になっており、製品規格、製品群規格、共通規格の各規格の中でこの基本規格を参照して試験を実施するよう指定されています。
UPS(IEC 62040-2)、アーク溶接機(IEC 60974-10)、PLC(IEC 61131-2)など、特定の製品に関する試験法と限度値等を規定
ISM機器(CISPR11)、家庭用電気機器(CISPR14-1, 14-2)、マルチメディア機器(CISPR32, 35)など、用途によって大まかに分類された製品群に対して適用される
住宅環境(IEC 61000-6-3, 6-4)または工業環境(IEC 61000-6-1, 6-2)など、製品が使用される環境によって適用される規格が変わる
試験方法などが記載された技術文書で、製品規格、製品群規格、共通規格の各規格の中でこの基本規格を参照して試験を実施するよう指定されている
住宅環境, 商業環境, 軽工業環境又は工業環境のいずれかの低電圧配電網に接続する、エネルギー蓄積装置を含む直流1500V又は交流1000V以下の出力電圧を発生させるUPSについて規定されています。UPSの使用環境、定格出力などによってカテゴリ分けされ、エミッションの限度値及びイミュニティの要求レベルが異なります。
アーク溶接装置におけるエミッション、高調波電流、電圧変動及びフリッカ、各種イミュニティ試験について規定されています。アーク溶接装置には、溶接電源及びワイヤ送給装置、冷却水循環装置、アーク起動装置、アーク安定化装置などの附属装置が含まれます。
機械制御及び工業プロセスのために用いることを前提とするプログラマブルコントローラ [programmable controllers (PLC)]、関連周辺装置であるプログラミング・デバッキング ツール[programming and debugging tools (PADT)]、ヒューマン – マシンインタフェース[human-machine interfaces (HMI)]などの要求事項及び試験について規定されており、エミッションの限度値は放射・伝導共にIEC 61000-6-4を、イミュニティに関する要求事項はIEC61000-6-2をそれぞれ参照しています。
0 Hz から 400 GHz の周波数範囲で動作する、工業、科学及び医療用装置並びに無線周波エネルギーを局所的に生成及び/又は利用するように設計された家庭用及びそれに類する器具に適用されます。製品の用途によってグループ1またはグループ2に分類され、それぞれ異なる限度値が要求されます。
グループ1:CISPR11の適用範囲内で、グループ2として区分されない全ての装置
グループ2:材料の処理、検査又は分析の目的で、電磁放射、誘導性結合及び / 又は容量性結合の形で周波数範囲 9 kHzから400 GHz の無線周波数エネルギーを意図的に発生して使用、又は使用のみを行う全てのISM RF装置
車両, 小型船舶及び内燃機関から発する妨害波が、その周囲で使用されている車載以外の受信機(TV, ラジオなど)に影響を与えることを防ぐ為に制定された規格です。対象はあくまで車両や船舶であり、これに搭載される機器などからのエミッションに関してはCISPR25で規定されています。
いわゆるオーディオ機器やTVについてのエミッションについて規定されていましたが、2017年3月に廃止されCISPR32へ移行されました。
モータ及びスイッチ又は制御素子によって主な機能が遂行される家庭用電気機器、電動工具及び類似の機器から発生する無線周波妨害波の伝導及び放射に適用されます。ただし、照明機器(CISPR15)、マルチメディア機器(CISPR32)、無線周波エネルギーを意図的に発生する機器である電子レンジ及びIH調理器(CISPR11)などには適用されません。
またCISPR11やCISPR32とは異なる点として、製品に接続される電源ライン及び信号ラインを吸収クランプによって測定する雑音電力測定(条件によっては放射エミッションが要求される)や、スイッチオン/オフされる動作によって発生するクリックノイズの測定が規定されています。
CISPR14-1の適用範囲にある機器に加えて、CISPR11の対象である電子レンジやIH調理器などに適用するイミュニティ要件について規定されています。
「低圧電源に接続されるか電池で点灯し、照明目的の為に光の発生及び/又は分配を目的とする全ての照明機器」に対して適用されます。この中には「基本機能のひとつとして照明がある多機能機器」「照明機器専用の独立した付属装置」「紫外線及び赤外線放射応用機器」 「広告用ネオンサイン」 「屋外で使用される街路灯、投光器」「バスや電車の中の照明」などが含まれます。ただし「ISM周波数で点灯する照明機器」や「航空機及び空港用の照明機器」、他のCISPR規格などで規定されている機器についてはCISPR15の適用範囲ではありません。
エミッションの測定、イミュニティ試験に使用される機器(アンテナ、EMIレシーバなど)及びアンテナ校正サイトについて規定されるCISPR16-1シリーズ、エミッションの測定法及びイミュニティの試験法について規定されるCISPR16-2シリーズ、CSIPRの技術報告書であるCISPR16-3、測定や試験、その他の不確かさについて述べられているCISPR16-4シリーズから構成されています。
オーディオ機器やTVについてのイミュニティについて規定されている、CISPR13と対になる規格です。CISPR13がCISPR32に移行されたのと同様にCISPR35への移行が検討されています。
主にPCやその周辺装置などからのエミッションについて規定されていましたが、CISPR13と同様に2017年3月に廃止されCISPR32へ移行されました。
主にPCやその周辺装置などに対するイミュニティ要件について規定され、各試験項目(静電気放電イミュニティ試験、放射電磁界イミュニティ試験など)については基本規格であるIEC 61000シリーズを参照しています。エミッションについて規定されているCISPR22と対になる規格ですが、CISPR22がCISPR32に移行されたのと同様にCISPR35への移行が検討されています。
CISPR12は車両などからの妨害波が周囲の車載以外の受信機に与える影響を規定していましたが、CISPR25では車両や船舶及びその内燃機関、搭載された電装品などによる車載受信機への干渉を規定しています。近年の電動化により搭載される電装品の数は飛躍的に増加し様々な無線デバイスも使用されるようになってきたため、自動車に関するEMCの重要性が増しています。
情報処理装置、オーディオ機器、ビデオ装置、放送受信機、娯楽用照明制御装置またはこれらを組み合わせた直流または交流の定格電源電圧実効値が600Vを超えないマルチメディア機器のエミッションについての規格として制定され、これにCISPR13及びCISPR22が統合されました。
情報処理装置、オーディオ機器、ビデオ装置、放送受信機、娯楽用照明制御装置またはこれらを組み合わせた直流または交流の定格電源電圧実効値が600Vを超えないマルチメディア機器のイミュニティについての規格として制定されました。CISPR20及びCISPR24の適用範囲に含まれる機器はこの規格の適用範囲に含まれており、現在両規格のCISPR35への移行が検討されています。
医療機器の故障は生命の危機に直結する可能性が高い為、高度なリスクマネジメントが必要になります。IEC 60601-1-2ではEMCの観点から医療機器が他の電子機器と共存するためのリスクマネジメントの必要性についても言及されています。旧版からの変更点として、試験レベルの引き上げや近接磁界に対するイミュニティ試験の追加などが行われました。
交流1 000 V以下若しくは直流1 500 V以下の、電源若しくは電池で動作する電気装置又は測定対象の回路からの電源で動作する電気装置のEMCに関するイミュニティ及びエミッションの要求事項について規定されています。
この規格は工業用計測分野、工業プロセス分野、工業製造分野及び教育分野での使用を意図した電気装置に適用され、工業地域又は非工業地域での使用を意図した「計測および試験用の装置」「制御用の装置」「試験室用の装置」及びこれらの装置と一緒に使用することを意図した付帯装置が含まれます。
(例)CISPR11 グループ1の放射エミッションの限度値(30 – 1000MHz)
それぞれ「住宅,商業及び軽工業環境」と「工業環境」におけるエミッション、イミュニティに関して規定されています。対象とする製品に関する適切な製品規格又は製品群規格がない場合はこれらの共通規格を適用します。
人体に帯電した静電気が放電されることによって引き起こされる障害は、対象の機器などに深刻なダメージを与える場合があります。静電気放電イミュニティ試験ではこのような放電現象を模擬し、静電気によって対象の機器がどのような影響を受けるかを試験します。
放射イミュニティ試験では、アンテナから照射された電磁界の中に試験対象の機器やケーブルなどを曝し、その影響による機器の動作を確認します。
電気的ファストトランジェント(電気的高速過渡)とは、例えば何かの電源をON/OFFした時などに発生するスイッチの高速切替によるノイズなどを指します。この試験は、このような立ち上がりが早く高電圧のパルスによる過渡現象が発生した状態を模擬したパルスを、EUTの電源及び3mを超える(可能性のある)ケーブルに印可します。
サージイミュニティ試験では、系統側の切り替えやON/OFFによる過渡現象やショート、誘導雷などによって起こる比較的大きなエネルギーの電圧・電流の変化(サージ)を模擬した波形を試験器から発生させます(雷が直撃した場合を模擬するものではありません)。
放射イミュニティ試験ではアンテナから照射された電磁界にEUTを曝しますが、周波数が低くなるにつれ妨害波はケーブルなどに重畳されやすくなる傾向にあるため、伝導イミュニティ試験では電源ライン及び3mを超える長さの信号ラインを試験対象としCDN(Coupling-Decoupling Network:結合減結合回路網)またはEMクランプや電流注入用プローブを使用してケーブルに妨害波が印可されます。
「磁界」と聞くと、小学校理科の磁石と砂鉄の実験や中学校で学んだフレミングの左手の法則などが思い浮かびますが、電子レンジやIHクッキングヒーター、携帯電話、自動車、鉄道など、身近なところでも電流が流れているところには必ず磁界(電磁界)は発生しています。
IEC 61000-4-11は50Hzまたは60Hzの交流回路(商用電源)から電力を供給される、一相あたりの定格入力電流が16A以下の電気/電子機器を対象とした規格です(16Aを超える機器についてはIEC 61000-4-34で規定)。